東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)14号 判決
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〔判決理由〕(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、本願明細書につき訂正命令が発せられない場合における本件審決の判断が正当であることは、原告の認めて争わないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告が、本訴において、本件審決を取り消すべき事由として主張するところが、訂正書(案)が採用されて特許請求の範囲が原告主張のとおり訂正された場合において、右訂正にかかる発明が引用例から容易に推考しうるものとはいえないものであることを前提とすることは、本件における原告の主張に徴し明らかなところであるが、右訂正にかかる発明もなお引用例から当業者の容易に推考しうる程度を出ないこと以下説示するとおりであるから、原告の本訴請求は、進んで爾余の点について判断を用いるまでもなく、理由がないといわざるをえない。すなわち、
原告がその主張の訂正書(案)に基づく訂正命令により、前掲本願発明の要旨に附加しようとした要件が、(イ)各コースの単繊維糸が各別に強撚―熱セット―解撚したものであること及び(ロ)各コースの単繊維糸が三本以上で、かつ、その合計デニールが少くとも四十五であることの二点にあつたことは、当事者間に争いのないところであるが、引用例によれば、引用例記載のナイロン靴下の編糸は「モノフイラメント(単繊維)ナイロン糸を強撚―熱固定―解撚したもの」であり、その単繊維のデニール値も十五デニールであることが認められ、右引用例と本願特許公報とを比照すると、引用例及び本願発明の各靴下は、いずれも無緊張の状態においては編目が変形する作用があるため、結果として全体的に収縮する効果を生ずるものである点において一致し、その差異は編糸を一本用いたものと各別に処理した編系三本以上を用いたものとの収縮力の程度の差異にすぎないといわざるをえない。しかして、被告の指摘するように、一般に編物は、その用途に応じて適当な編系を選定し、同一糸条を二本以上引き揃えることは普通であることは、原告においても明らかに争つていないところであるから、公知の収縮性編物の収縮力を増大させるため、モノフイラメントの編糸を各別に処理したうえ三本以上引き揃えるというようなことは、当業者の容易に推考しうるところと認めるを相当とし、他にこれを左右するに足る証拠はない。原告は本願発明の靴下の結縛力は単繊維糸し弾性を伴う伸びに限界があることを前提とし、その限界に近づくにつれ増大するものであるから、伸びの限界を要しない引用例の伸縮性とは全く異質なものである旨主張するが、引用例のものにおいても、若干の原告のいう結縛性が存在することは原告の自認するところであるのみならず、靴下の本来の性質に鑑みれば、伸縮性、その単繊維の伸びに限界があることを必要しないということも、社会的通念に反するものといわざるをえないから、両者の差異は、所詮程度問題の範囲を出ないものというべく、原告の右主張はこれを容認することはできない。
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、本件審決がこの主張の点において違法であるとしてその取消を求める原告の本訴請求は、その前提においてすでに失当であるから、進んで他の点について判断するまでもなく、理由がないものといわざるをえない。よつて、これを棄却する。(服部高顕 三宅正雄 奈良次郎)